特許出願公開前の出願の放棄により、秘密裏に後願を拒絶する
特許を出願するということは、その出願する発明を公開しても構わない、という出願人の覚悟があるのが前提です。
しかしながら、平成10年法改正前の制度では、発明を公開せずに他人の後願を拒絶できる規定がありました。
そのため出願人は、ノウハウとして秘密にしたい発明を出願し、仮に他人の後願がその発明について特許取得を図ろうとしてもできないだろうという安心感を得ることができたのです。
このからくりを説明します。
昔の特許法には、「特許出願が取り下げ等されたら、その出願(先願)が後願を拒絶する効果がなくなる」(特許法39条5項)という旨の規定があったのです。
この「取り下げ等」に出願の放棄が明記されていませんでした。
その一方で、出願をなかったものとする手続きには、「出願取り下げ」と「出願放棄」があったのです。
そこで上記の条文を都合よくこう読んだのです。
「特許出願が放棄されたら、その出願(先願)が後願を拒絶する効果を有する」(昔の特許法39条5項)
しかも、その放棄の時期についての限定は当然なかったので、特許の出願公開(出願から1年6月後に公開公報が発行されます)より前に出願の放棄をすれば、発明を公開せずに(秘密裏に)上記の効果を得ることができます。
このからくりを利用して、平成10年法改正前までは、特許を出願した直後にその出願を放棄するという不思議とも思われる実務が行われていました。
因みに、明確にこの戦略で特をした人や損をした人に今まで会ったことがありません(少なくとも私は)。
なお、平成10年法改正により、上記の「取り下げ等」に出願の放棄が明記され、この戦略は利用できなくなりました。
特殊パラメータによる発明の表現で広い権利を取得
特許庁の審査官は、特許出願書類を読んでその発明が新しいかどうかを判断します。
その新しさは、公知の文献に記載された事項を基準にするのが殆ど(99%)です。
そこで、公知の文献にも記載されていない新たなパラメータを用いて発明を表現して、出願したら審査はどうなるでしょうか?
答えは「拒絶にする根拠がないから特許するしかない」が、平成12年頃までの運用でした。
なお、この「新たなパラメータを用いて発明を表現」とは、発明自体の新しさを含む場合もありますが、そうでない場合も含まれます。
パラメータが新しいだけで、公知のモノもそのパラメータで表現すれば、それに含まれる場合があります。
平成12年の特許庁のセミナーに参加した際に、審査官を指導する立場の人の話を聞いたのですが、現場は相当混乱していたそうです。
- たとえば、発明の新しさについて「疑わしい」と思って拒絶理由を通知しても、「審査官殿の判断には根拠がない」の1行のみ書かれた意見書で特許せざるを得なかった。
- 中には「よくこんなパラメータを思いついたな」と思われるような、複雑なパラメータを用いている場合があり、審査に大変苦労した。
- この戦略は、世界中で流行していた。
このようなことに鑑みて、現在は「疑わしい」場合でも拒絶理由を通知できるようにしました(審査基準)。
ただし、パラメータで表現せざるを得ない場合もあるため、一律な判断は避けています。
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特許戦略を考える際には、過去の特許戦略を含めた特許戦略の歴史・事例を多く知っていることが重要と考えます。