商品デザインの模倣の防止は、特許制度によることも意匠制度によることもできます。欲を言えば、特許権と意匠権の双方を取得するのが理想的です。
これらの制度の違いを理解することで、各制度の利点を活かした戦略をとることができます。以下に4つの観点から、同じ商品デザインを、特許権で保護する場合と、意匠権で保護する場合の違いを説明します。

①保護の条件の違い
特許制度における技術の観点からの新規性と、意匠制度におけるデザインの観点からの新規性とは違います。
つまり、特許の審査では新規性が無いと判断されても、意匠の審査では新規性があると判断されることがあり、またその逆もあるということです。
このように、特許制度では保護されない商品デザインを保護するため、意匠制度を利用できるケースがあります。
因みに、特許を出願しておいて審査で拒絶された場合等には、出願時をそのまま維持した意匠登録出願に変更できます。

②権利範囲の広さの違い
特許制度と意匠制度は保護対象が異なるため、それらの権利範囲は単純に比較できません。
そこで、特許権・意匠権を容易に逃れて代替商品を販売できる場合を「権利範囲が狭い」とし、それが困難な場合を「権利範囲が広い」として、権利範囲の比較をします。

まず特許制度では、権利範囲を文章で表現するため、その範囲は包括的な範囲から具体的な範囲まで、記載する者の意思に従って定まります。
たとえば、文章で「四角形」と表現すれば、正方形、長方形、平行四辺形等を含みます。
さらに「多角形」と表現すれば、四角形の他に三角形・六角形等を含みます。

その一方意匠制度では、権利範囲を主に図面で表現するため、その範囲は文章で表現するより具体的に定まります。
たとえば、図面に長方形を描いた場合には、その短辺と長辺の比率が表現された状態で権利範囲が定まります。

意匠権の効力は、似たようなデザインの範囲に及びますが、その範囲は、その特定の長方形に基き、美感が共通する範囲だと言われていますので、文章で表現する「四角形」にまで権利範囲が広がることはないでしょう。
意匠制度では、「四角形」のような包括的な表現で権利を取得できません。

このようなことから、特許権の方が、意匠権よりも権利範囲を広く取得できると考えられます。
ただしこのことは、あくまでも一般論です。
たとえば技術が成熟した商品分野では、従来の技術を避けながら取得した特許権の権利範囲が狭くならざるを得ません。

また「特定のデザイン≒機能」となる商品があると思います。
強いて例を挙げますと、たとえば、そのデザインが魚を引き寄せる要因となる魚釣り用のルアー等です。
このような商品は、特許権と意匠権の権利範囲の広さがほぼ同じと考えられます。

③審査の期間の違い
一般的に、特許の審査は時間がかかり、意匠の審査は早く終わる傾向にあります。
意匠は、権利範囲が主に図面で表現されており、権利内容の把握が容易なことが審査の迅速さの一因であり、また権利行使時の迅速な審理を可能にしていると思います。
そのため、重要な商品については、特許権と意匠権の双方を取得しておき、模倣品が流通し始める当初は意匠権を行使し、その後特許権を行使する準備をしておく、といった戦略をとることができます。

④権利化に要する費用・労力の違い
これは、圧倒的に意匠制度の方が費用が安く、軽い労力で済むと言って構わないと思います。
なお、意匠制度の方が軽い労力で済むのは、特許出願のように多くの文章作成を要しないためです。
費用面で有利なことにより、意匠権の権利範囲の拡大を図るため、バリエーションの意匠権を取得したり、商品の全体や商品の部分等、異なる観点からデザインを保護をするために複数の意匠権を取得することが容易です。
ただし、審査の過程で拒絶理由通知への対応費用を要するケースがあるため、すべての場合で意匠制度の方が費用が安く済むとは断言できません。

参考文献
寺岡秀幸 『近代中小企業』中小企業経営研究会 二〇一五年五月号「なぜ意匠権を取得するのか・実用新案制度について」