ゆるキャラに代表される、キャラクターの保護について相談されることがあります。
その相談の度に「上手く説明できないな・・」と思っていたので、これを機会にまとめてみます。
著作権法の保護の限界(1)
(A) (B)
事例で考えます。
左側の(A)の絵を創作して、そのキャラクターグッズを製造販売していた甲は、右側の(B)(甲が創作したものではない)のキャラクターグッズを製造販売していた乙を、著作権侵害とした訴えました。この訴えは認められるでしょうか?
答えは、認められないだろう(著作物の類似の議論はここでは省略します)です。
すなわち、著作権法の保護対象は、(A)のように具体的に表現したものです。
(A)のような1枚の絵の登場人物の人格ともいうべきを持つ抽象的概念(キャラクター)である(B)までは甲の著作物として保護しないのです。
これが著作権法のキャラクター保護の限界です。
すなわち、表情等を変えたキャラクターは、保護の対象から原則として除外されます。
著作権法の保護の限界(2)
またこの議論とは別に、著作権の効力は、どの程度類似の範囲まで及ぶのかの議論があります。
((A)と(B)が類似してるとして、著作権侵害は成立しないのか?)
以下の被告イラストは、原告イラストに類似しないとして著作権侵害が認められなかった例です(博士イラスト事件(東京地方裁判所平成20年7月4日判決))。
ざっくり言いますと、著作物の類似が認められる範囲は、後述する意匠・商標に比べて狭いと言われています。
上述の(A)と(B)が著作物として類似するかどうかは、微妙だと思います。
原告イラスト被告イラスト
著作権法の保護の限界(3)
因みに、キャラクターの名前(◯◯ちゃん等)は、著作権法では保護されません。
商標法の保護の限界(1)
また、事例で考えます。
甲は、上述の(A)の絵を、指定商品「ビール」として商標登録しました。
乙は、ビールのラベルに上述の(B)のキャラクターを使用したものを製造販売していました。
甲は乙を、商標権侵害とした訴えました。この訴えは認められるでしょうか?
答えは、認められる可能性が高いです。
本例で、商標権侵害が成立するためには、両商標が「類似」することを要します。
この「類似」は、すなわち「紛らわしい」ことです。
需要者が混同を生じることです。商標権侵害の成否は、ほぼその1点に集約されます。乙の模倣の事実は問われません。
本例では、指定商品「ビール」に対し、被告の使用商品は「ビール」で一致します。
あとは、(A)と(B)の類似性が問題になります。
(A)と(B)の羊の顔の輪郭が同一であり、両者をビールのラベルに表示したときに、需要者は紛らわしく感じると思われます。
この例では、典型的にキャラクターが商標として機能する使用態様としました。
実はキャラクターが商標(識別標識)になるのは限られた商品です。
この点については、「商標とは何か」に詳しく書いてますので参照願います。
これはキャラクターの商標法による保護の一つの限界です。
商標法の保護の限界(2)
商標法の保護には、お金がかかります。
また、キャラクターはあらゆる商品に付される可能性があります。
この点もキャラクターの商標法による保護の実務上の限界と言えます。
商標法では、商品・サービスを45の区分に分けて出願料・登録料を以下のように設定しています。
出願料:3,400円+(区分数×8,600円)
登録料:区分数×28,200円
(特許事務所を利用する場合は、その手数料が加わります)
有名なゆるキャラは、ほぼ全ての商品・サービスについて商標権を取得しております(しかも名前と複数の図柄について)。
商標法でキャラクターを保護するのはお金がかかることを覚悟してください。
代表的に使われる商品・サービスについて出願するのも一策です。
また、キャラクターの名前については多少お金がかかっても商標法で保護する必要がある場合が多いでしょう。
名前を”安心して”保護できるのは商標法だけだからです(後述する不正競争防止法でも保護されますが、安心できないということです)。
意匠法の保護の限界(1)
また、事例で考えます。
甲は、上述の(A)の絵の人形を、意匠に係る物品を「人形」として商標登録しました。
乙は、上述の(B)の人形を製造販売していました。
甲は乙を、意匠権侵害とした訴えました。
この訴えは認められるでしょうか?
答えは、認められる可能性が高いです。
本例で、意匠権侵害が成立するためには、両意匠が「類似」することを要します。
この「類似」は、すなわち「似通った」ことです。
意匠権侵害の成否は、ほぼその1点に集約されます。
乙の模倣の事実は問われません。
本例では、意匠に係る物品「人形」に対し、被告の商品は「人形」で一致します。
あとは、(A)と(B)の類似性が問題になります。
(A)と(B)の羊の顔の輪郭が同一であり、美観が共通し、両意匠は類似すると思われます。
この例では、たまたま意匠に係る物品と、被告の商品「人形」が一致するため、侵害が成立しました。
しかしながら、実際には、意匠に係る物品と同一・類似以外の商品にキャラクターを使用する場面が考えられます。
そうなると意匠が類似しないため、意匠権の効力が及ばなくなります。
意匠法の保護の限界(2)
また、意匠は新規性を要求されるため、キャラクターが世の中に流通する前に出願する必要があります(原則)。
意匠法の保護の限界(3)
また、キャラクターはあらゆる商品に付される可能性がありますので、全ての商品について意匠権を取得することは金銭面を含めて難しいでしょう。
意匠登録出願料(1件):16,000円
登録料(1件):第1年から第3年まで 毎年 8,500円 第4年から第20年まで 毎年 16,900円
(特許事務所を利用する場合は、その手数料が加わります)
不正競争防止法の保護の限界
不正競争防止法は、一定要件を満たす不正な競争とみなせる行為をやめさせることのできる法律です。
不正競争防止法には、商標法に似た規定と、意匠法に似た規定があります。
不正競争防止法と商標法との違い(不正競争防止法2条1項1号)
1つ目は、不正競争防止法ではそのキャラクターが特定の商品に使われていることが「需要者の間に広く認識されている」ことが保護の要件となることです。
この点は一地方での周知性で足りるとされているため、ゆるキャラ等の地域おこしのキャラクター等はこの要件を満たすことが多いと思われます。
2つ目は、不正競争防止法は商標法のように権利を取得する必要がないことです。
3つ目は、不正競争防止法は「他人の商品又は営業と混同を生じさせる」ことが保護の要件となることです(不正競争防止法2条1項1号)。
不正競争防止法の適用を受ける場面とは、この状況になるまで模倣が進んでいる場面なのです。
商標法のように、商標権を予め取得しておくことで侵害の予防を図ることはできません。
不正競争防止法と意匠法との違い(不正競争防止法2条1項3号)
1つ目は、不正競争防止法では意匠の類似といような、幅をもってキャラクターを保護することなく、ほぼデッドコピーの場合に限られます。
2つ目は、不正競争防止法は意匠法のように権利を取得する必要がないことです。
3つ目は、不正競争防止法は意匠法のように保護の条件として新規性等を要求されることがないことです。
4つ目は、不正競争防止法は保護期間が、原告側が日本国内において最初に販売された日から起算して三年に限られることです(不正競争防止法19条5号イ)。
なお、不正競争防止法の適用を受ける場面とは、模倣が進んでいる場面なのは上述しました。
意匠法のように、意匠権を予め取得しておくことで侵害の予防を図ることはできません。
商品化権について
商品化権という法律上の権利はありません。ですので、その権利の内容は、個々の契約の内容によります。
商品化権を取得したからといって、「自分だけがこのキャラクターを商品化できる」というわけではありません。
第三者が合法的にそのキャラクターを商品化できる場合もあります。