特許を出願すれば、必ず特許されるとは限りません。
新規性・進歩性が否定されれば審査で拒絶されます。
現に、特許出願の約半数程度は特許されていません(参考:特許行政年次報告書2014年版)。
拒絶される等によって特許されなかった発明は、既に別人が特許を取得していない限り「自由技術」となり誰でも模倣できてしまいます。
そうなる前に、同業他社への牽制力を発揮することができないか、について説明します。
どうすれば、同業者を牽制できるか
特許出願の状態で、どうすれば同業者を牽制できるでしょうか?
その答えは簡単。
「特許出願中」の状態を維持するのです。
「特許出願中」ということは、今後どんな権利を取得するのか、予想がつかない段階です。同業者としては、最も厄介な存在です。
また、出願書類のボリュームも大事です。
考えてみてください。1000ページもの公開特許公報を同業者が出願したことがわかったら、その発明がどんなに公知技術に近くても、その発明に関する発明を実施するのを躊躇するのではないでしょうか。
極端な例ですが、主に欧米企業による数千ページに渡る特許文献を稀に見かけます。
これは、明細書の隅っこに書かれてる事項であっても、補正によりクレームアップされる可能性がある一方、1000ページ近くの記載事項の全てを検討したくない(できない)からです。
「特許出願中」の牽制力
もっと現実的な話をしましょう。
出願中の特許がある場合に、出願人以外の企業でその発明の実施を検討している企業の従業員が、「その出願はきっと拒絶されるから、その発明を実施すべきだ」と判断できるでしょうか?
万が一にでもその出願が特許されたときのことを考えると、後で自分への責任追及がされないように、といった保身のためもあり、「出願中の発明を実施すべきではない」と判断する確率は高いと思います。
これは弁理士にしても同じです。
出願中という不安定な段階では、判断がしにくいのです。
以上が「特許出願中」の牽制力です。
ただし、当たり前のことですが、同業者間で一般化された技術は、いくら特許出願しても他人を牽制できません。
他人を牽制できる発明には、特許されるかどうかの判断が微妙な程度の進歩性が必要です。
また、牽制ばかりで全く特許を取得してない者も、「オオカミ少年」と同様に相手に”怖い”とは思われ難いと思います。
どうすれば「特許出願中」の状態を長く維持できるか
出願から、3年経過までに審査を請求する手続があります。そして、それを徒過して請求手続をしなければ、出願が取り下げられたものとみなされます。
ですから、少なくとも出願から3年までは、特許出願中の状態を維持できます。
(「出願審査請求期間を実質的に1年間延ばすための裏ワザ」を参照ください。)
それよりも長く特許出願中の状態を維持するためには、審査を請求する手続をします。
審査が進行して拒絶される、または特許されそうになったら、分割出願という、出願のスペアを作る手続を濫用的に活用する手があります。
その際には、通常の出願をするための特許印紙代14,000円と、出願審査請求料として、(118,000円+請求項数×4,000円)要します。
下の図に示すように、元の出願Aの拒絶が確定し権利化ができなくなっても、その確定前に別の分割出願Bをしておくことで、分割出願Bの権利化の可能性は残ります。
そして出願Bの拒絶が確定する前に別の分割出願Cをすることとし、そのように分割出願を繰り返せば、理論的には、権利化の可能性がある出願の価値を元の出願から最長20年まで維持できます。
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このように、特許戦略には、特許を取得するもの以外のものもあります。弁理士がそれをお手伝いします。
「弁理士を利用するメリット」を参照願います。
事案によっては、特許を取得するより、「特許出願中」を維持した方がいい場合もあると思っています。
何故なら、特許を取得した後は、上述の「補正」のような手続が、非常に制限的になるため、特許逃れが容易になってしまう場合があるためです。
しかし、お客様の特許を取得して、特許賞をもらいたいという気持ちも大事にしたいと思います。