Adobe System社(以下A社)の文書形式(Portable Document Format:PDF)は皆様も利用していると思います。
A社は、PDFの作成ソフトを有料で販売し収益を得ています。
しかし、PDFの仕様は公開してます。
そして、他のメーカーが同様のソフトをA社よりも安価に製造販売している上に、閲覧ソフトを無償配布しています。
それにもかかわらず、A社はPDFの分野で高い利益率(マイクロソフトと並び利益率が高い企業の一つ)を維持しています。
何故でしょうか?
A社が行ったことを、以下に4つに分けて説明します。
1.発明・特許取得
A社は、OS等に依存しない画期的な文書形式(PDF)を発明し、特許を取得しました。
2.ソフトウェアの配布
A社は、PDFの作成、編集ソフトウェア(Adobe Acrobat)は有償で販売しました。
その一方で、文書閲覧ソフト(reader)を無償配布しました。
3.特許と著作権の無償開放
A社は、PDFの仕様を公開するとともに、PDFに関する特許と著作権を無償で開放しました。
→このことで、爆発的にPDFの利用者が増え、市場が拡大し、PDFが標準化(ISO化したのは2008年)しました。
ここで、無償開放の条件を付しました。
その内容は、特許と著作権の無償開放の条件を「PDFの仕様に準拠した作成ソフトを提供すること」とするものです。
→これが最大のポイントです。
「準拠する」というのは、ざっくり言いますと、「PDFの仕様”そのままの”」という意味です。
これにより他者は、A社が各時点で提供するPDFを作成するソフトを販売できるのみです。
そして、PDF自体に勝手な改良・拡張を加えることができなくなりました。
(なお我が国では、一般に第三者の技術改良を制限する行為は独占禁止法に抵触するおそれがあると言われてます。)
4.バージョンアップ
A社は、PDF作成ソフトの改良(バージョンアップ)を繰り返しました。
→他社は、A社の新たなPDFの仕様の公開を待ってから開発を行うことになります。
他社は、後追いで製品を市場投入せざるを得ないため、A社はこの「時間差」で常に他者に対し優位性を維持できます。
(参考:経済産業省、「標準化戦略に連携した知財マネジメント事例集」、2012年3月等)
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この例は、PDFの発明という偉業をどのように利益に結びつけるか、という知財マネージメントの好例と言えます。
また、「金になる、必須特許になった発明の例」で書いた、特許を取得し、その技術内容を規格化(JIS等)して、その特許を必須特許にする手法の一例とも言えます。
発明をしたら、「どう利益に結びつけるか」を考えて見てください。
弁理士がお手伝いできることがあるかもしれません。