設問1
最初に質問します。
指定商品を「被服」とする「阪神優勝」の商標権を取得した人が、上の図のようなデザインのTシャツを販売したとします。なお「阪神優勝」の文字は、他の箇所には使用していないものとします。
さて、このTシャツは商標権によって保護されるでしょうか?
商標とは何か
上記の事例の設問1の答えは「99%保護されない」です。
この理由を商標制度の趣旨から考えましょう。
商標制度は、商標の使用者の業務上の信用の維持を図り、産業の発達に寄与し、需要者の利益を保護するために設けられています。
商品を市場に投入した当初は、その商品に使用される新たな商標には価値が殆どありません。
しかし商標を使用して商品の販売を継続すると、需要者は、商標がその商品の品質や信用を象徴していると感じるようになります。
こうなれば、事業者の信用が商標に蓄積されているので商標に価値が生じます。
すると需要者は、無意識に商標を手がかりとして安心できる商品を買うようになります。
このような価値ある商標を他人が勝手に使用し、信用の横取りができるとなれば、本来的な商標使用者が損をします。
それだけでなく、ニセ物商品を買ってしまう需要者も損をします。
また、市場での商品の取引秩序が乱れてしまいます。
そこで、商標制度が設けられ、事業者に対し商標の独占的な使用を保障でき、他人による紛らわしい商標の使用を禁止できるようにしています。
このような趣旨から把握できる保護対象が「商標」です。商標を一言で定義するのは難しいと思います。
さて、上記の事例で商標制度が保護しようとする商標とは「阪神優勝」でしょうか?
上記の事例では、Tシャツの首周りのタグに表示された商標が商標制度が保護しようとする商標であり、「阪神優勝」ではありません。
何故「タグ」なのかというと、商慣習上、Tシャツの「出所」を表示するのは「タグ」だからです。
上記のような「阪神優勝」の使用方法(胸の部分に大きく表示)は、Tシャツの出所を表示する識別標識としての使用方法ではなく、Tシャツのデザイン、またはTシャツをメッセージボードとしたメッセージなのです。
すなわち、「阪神優勝」はこの事例ではTシャツの商標ではないのです。
ただし、上記のようなTシャツの胸の部分に大きく表示させる方法が、今後商慣習上、Tシャツの「出所」を表示することになる時代が来るかもしれません。
現在ブランド「MIKIHOUSE」®がそのような商慣習をつくる可能性があります。
商標は商慣習の時代の変遷によって認識が変化するものなのです。
設問1の答えとして「99%保護されない」とし、1%の保護されると考える余地を残したのは、そのような時代の変遷を考慮したものです。
このような、商品の表示場所によって商標権の効力範囲になったりならなかったりする判断は、一般的です。
他には、牛乳パックの例があります。
胴体部分に大きく表示されるもの(A)は、「牛乳」の商標であり、牛乳パックの開口部の縁部分(開口しない状態では見えない)に小さく表示されるもの(B)は「牛乳パック」の商標であります。
Aは「牛乳」を流通させるときに、Bは「牛乳」となる前の「牛乳パック」の段階で流通させるときに、商標として機能します。
設問2
指定役務(サービス)を「演芸の上演」とする「PPAP」の商標権を取得した人が、いわゆる「PPAP」のネタを演芸場で披露する権利を独占できるでしょうか?
回答は100%Noです。
上記趣旨から考えて、商標権者は「演芸の上演」を業とする業者で、演芸場に「PPAP」と表示したり、演芸に関するホームページに、業者名として「PPAP」の名を表示する権利を独占できるに過ぎないのであって、ネタを披露する行為までは独占できません。
まとめ
以上のことからわかるように、商品に文字や図形が付されているからといって、必ずしも商標権で保護できるわけではありません。
このことをゆるキャラのようなキャラクターを商品化しようとする人に説明しようとするのですが、説明時間の制限もあり、うまくいきません。
キャラクターを様々な商品に表示して、商標で保護しようとするのですが、商品やその表示方法によっては厳密に言えば保護は難しいのです。
「キャラクターの各法律での保護の限界」を参照願います。
とはいえ、一般の方からの商標制度の誤解のされやすさを考えますと、本来商標制度で保護されない商標権を取ることでも、牽制力程度の力は発揮できるかな・・・とも思います。
関連ページは「商標登録出願をするには」です。
また「弁理士を利用するメリット」を参照願います。