N社という従業員数50名程度、年間売り上げ高が20億円程度の中小企業があります。
同社は、農産物や水産物を加工する装置を製造販売する企業です。
N社の特許戦略を紹介します。
(1)特許の対象製品
ホタテ貝を入れるだけで自動的に殻から貝柱を傷つけずに取り分けられ装置が対象製品です。
北海道のホタテ漁は養殖にシフトし1日トン単位で運ばれてくるホタテの殻を剥く、ヒモをとるなどの加工はすべて手作業で行われていました。
しかし人海戦術にも限界があるため、この製品開発に商機を見出したとのことです。
(2)社長の考え方
この製品の国内市場は、年間3億円程度の小さな市場です。
大企業も中小企業もこの市場規模を見れば魅力を感じないでしょう。
そのため、特許によって他社の参入を阻むことができれば、確実に年間3億円の収益を得ることができます。
(3)出願戦略
最初に出願した基本特許は、公報の状態で57頁もの大作です。
57頁の分量の特許書類を特許事務所に作成依頼しますと、100万円以上の費用がかかります。
しかも、基本特許以降も、改良特許を出願し続けています。
しかし確実に年間3億円の収益を得ることができるのであれば、特許費用は安いものだと割り切ったと思われます。
邪推ですが、「殻を少しだけ火にかざすと貝柱が簡単に外せることを発見」とありますが、これは料理をする人ならば知ってる周知技術の可能性が高いと思われます。
とすれば、基本特許の分量を57頁としたのもうなずけます。他人からしてみると、いくら傷(無効理由や異議理由)のあるおそれの大きい特許とは言え、57頁もの大作を検討して無効審判を請求・異議を申立てるには、手間がかかりすぎます。無効審判・異議申立を見越して、請求人・申立人のやる気を削ぐため57頁まで膨らましたのでしょう。(この特許に対しては、実際に異議申立がされ、維持決定がなされています)
あくまでも邪推ですが、そうだとしたら、この出願を代理した弁理士はやり手の弁理士と考えられます。
(4)この事例が成功したポイント
同じ状況でも、国内市場が年間100億円の事業では、ここまでの特許による技術の独占は困難です。
後から参入してくる大企業の圧倒的な開発力・特許出願件数には太刀打ちできないでしょう。
年間3億円の事業だからこそ、他社の参入を阻止できます。
また、その独占状態ゆえに改良特許を出願し続けることができます。
他社は開発しないため改良発明をすることができません。
そして基本特許が切れても改良特許により独占状態を維持できます。
参考にしたウェブサイト
http://kuramae-kvs.sakura.ne.jp/semnar_Lecture/kvsseminar23_lecturerecord.pdf
https://www.hint-sapporo.jp/pickuphokkaido/view/005
https://www.jpo.go.jp/torikumi/chushou/pdf/bunkatu_jirei/hokkaido_16.pdf