特許出願はどれだけ慎重になっても、慎重すぎるということはありません。

多少の時間がかかってしまったとしても、さまざまな側面から発明の持つ意義を見つめ、もっとも効果的な形で申請することをおすすめします。

では、さっそく例を見ていきましょう。

実現困難で非常に斬新かつ高度な技術だったにもかかわらず、「必須特許」とならなかったケースです。

なお必須特許とは、その特許を利用しなければ、その製品を製造できない程、避けては通れない特許のことです。

せっかくの特許に、こんな逃げ道があるとは

リチウムイオン電池という再充電可能な電池があります。

当初この電池の負極には、炭素材が用いられました。

その負極についての基本特許は、負極に炭素材である「黒鉛」を用いることを特徴としたものでした。

ここで、「黒鉛」は層状の構造をなし、分析機器を用いれば「黒鉛」を用いたかどうかわかります。

 

そこで同業他社は、代替技術(逃げ道)として層状の構造を持たない(厳密に言えば、層状の構造が分析機器で検出されにくい)炭素材である、アモルファスカーボンを用いて(「黒鉛」を使用せずに)、リチウムイオン電池を製造する技術を開発しました。

その結果この基本特許の発明は、「必須特許」とはなりませんでした。

 

仮にその基本特許の出願の際に、「黒鉛」でなく、「炭素材」(黒鉛も炭素材の一種)を用いることと記載していれば、強い特許権になったのに、と考えてしまいます。

ただし、商品開発の初期段階では、このように発明の範囲を狭く捉えるといったことは起きうることです。

その研究に没頭するあまり「黒鉛でなくてはならない」という固定観念が生じたわけです。

 

「黒鉛」の一つ上の概念である「炭素材」を導くことは、今から考えますとそれ程困難でなかったように思えます。

しかし、出願時の技術の状況を考えますと、リチウムと化合物を形成する炭素材といえば、黒鉛だけだったとは言い切れませんが、黒鉛が主なものだったので、後出しジャンケン的にそのようなことを考えるのは卑怯な気もします。

 

とはいえ逃げ道があったことは否めず、残念な特許出願だったと言わざるを得ないでしょう。

あなたの発明、残念な特許出願にしないでください

(参考:ウェブサイト「リチウムイオン電池の歴史」http://www.akihappy.sakura.ne.jp/lithium_batteries/richiumuion_dian_chino_li_shi.html 等)

 

先程の例では、むしろ電池の業界に疎い弁理士が担当したほうが、第三者的な視点で発明を捉えて上手くいったかもしれません。

「黒鉛」の一つ上の概念である「炭素材」を導けたのではないかと思えるからです。

 

もちろん電池に詳しい弁理士でも、広い視野を持っていれば当然のようにクリアしてしまうでしょうが。

もっと多角的な方向から発明を見直し、さらに良いかたちで特許を出願するでしょう。

 

とくに個人で特許を出願しようと考えている方は、先程の例のような失敗リスクにお気をつけください。

プロでも失敗するわけですから、みなさんはけして石橋を叩いて渡るマインドを忘れてはいけません。

 

自分でやるメリットはいくつもありますが、失敗しては意味がなくなってしまいます。

場合によっては弁理士の意見を聞いてみましょう。

時間がありましたら、こちらのページもご参照ください。

弁理士を利用するメリット

 

せっかくの発明を残念な結果にしないためには、あわてず急ぎすぎずです。

さまざまな方向からの検討を加えましょう。